【第1章 憧れることの効用】
(1)憧れると頭が良くなる
>>> ⑥人間と道具と
[1:理論編]
【第1章 憧れることの効用】
(1)憧れると頭が良くなる
>>> ⑥人間と道具と
[1:理論編]
前項で示したとおり、火は人間に「時間」を与えた。つまり、狩猟時間の延長、生活時間の延長、寿命の延長と言い換えることができるだろう。それは同時に「空間」という特権を得たことにもなる。時間的制約からの解放は、空間的制約からの解放をともなうからである。そして、人間がさらに広大な空間を領有することができるようになったのは、「道具」のおかげである。
火の力によって、人間は強靱な生存力を手に入れたが、なかでも、火の加工力に気づいた人間はより大きな力を得ることができたはずである。武器、食器などに施した加工によって、他の集団よりも遠くへ移動でき、たくさんの食糧を確保できるわけである。
食糧確保能力の強弱が組織形成のスピードと組織の結束力の強弱に直接的な関連があることは、現代人でも実体験として理解できることである。分け与える能力の強いリーダーには大きな組織が従属する。原始時代の男たちとまったく同様の体験を、我々現代ビジネスマンは日常経験していると言えよう。
さて、道具の発明と運用が、人間社会を形成していくのに重要なファクターであったことは明白である。火と道具を得たことで、人間の生活単位は、個もしくは小規模な家族から、複数の家族でなる組織的集団へと変化していったと考えられる。もちろん、「言葉」がそれに拍車をかけたことは、「旧約聖書・創世記」のバベルの塔のエピソードを紐解くまでもないだろう。
誤解を恐れず端的に言えば、火は人間に時間をもたらし、道具は人間に空間をもたらしたと理解できる。空間とは、居住地域を意味し、また人間の共同社会のことをも指す。
ところで、空間的拡張を手に入れた人間がそこからさらに手に入れたものがある。
それは、手と目である。もちろん、もともと人間には手と目があるのだが、管理すべき空間が広くなったことで、手と目の機能が飛躍的に向上したと考えられる。
空間的自由を得たということは即ち、外敵から襲われるリスクが増えたということでもある。外敵への警戒心は、遠くまで見晴るかすことができる視野の拡張と視力の向上をもたらしたであろう。さらに、自分と自分が守るべき家族・組織からより遠い地点で、敵を仕留める必要性があるために、道具や火を運用する手の機能が向上したと考えられる。器用になったのだ。それまで、食糧の皮をむいたり、棒きれを握ったりする程度の使い方しかできなかった手に、様々な機能が付加されたはずである。道具の発明は、使用法の発明でもある。手の使い方、指の動かし方、腕の使い方の新規発見が行われたと考えられる。
そのことを証明する図がある。
カナダの脳外科医ペンフィールドは、ヒトの大脳新皮質における「運動野・体性感覚野と体部位との対応関係」を図示した。例えば、舌で味わい「美味しい」と感じるのは、大脳でそう感じているのである。舌先が感じているのではない。舌先はあくまで情報収集の出先機関(器官)に過ぎない。つまり、大脳に舌の味覚に相当する部位があるのである。人間の五感のすべてが大脳のどこかに対応しているのである。それが左図「ホムンクルス」である。
この図を見れば分かるように、人間の五感のうち大脳に占める割合が多いのが、口と手である。これは、食糧を確保することがいかに大切かを物語っている。食糧を確保するために、火と道具を使う「手」と、確保した食糧を体内に運ぶための「口」である。この二つの感覚が大きいおかげで、人間は食糧を確保することができるのである。
さて、ホムンクルスでは、顔のなかで口がもっとも大きく描かれているが、目と耳も、他の体の部位に比較すると大きめに描かれている。
前項で、人間は時間を聴覚野で感じると述べた。時間感覚と耳は密接な関係があるのだ。集中している時、どんな騒音があっても耳に入らない。そんなとき、たいていの場合、時間感覚が麻痺している。気がつけば数時間経っていたなどということがよくある。私の場合、この原稿を執筆している時がそういう時だ。また、音楽を聴きながらジョギングをしていると、交通事故に遭う確率が増えるらしい。音楽が聴覚野を独占しているため、近づいてくる自動車などの音を察知することができないのである。
では、空間の場合はどうか。
ご想像通り。人間は、空間を視覚野で感じる。空間認識能力というやつだ。これは目の機能である。
数年前、『話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く』がベストセラーになったが、この本では、空間認識能力の男女差が脳科学的に述べられている。
狩猟を仕事としてきた男は、外敵から我が身と仲間を守るために、目の能力が女性に比して優れているらしい。しかも、目では見えない背後や物陰すらも察知しようとする空間認識能力や直感力が優れている。だから、自動車の車庫入れは男の方が巧いというのである。一方、人間同士の関係性を瞬時に察知する能力は女性が優れており、それは家庭と子どもを守る義務を負った女性ならではの能力であると述べている。
以上のことから脳科学的に限定して言えば、女性が政治外交を行い、男性が戦争と生産活動を行う、古代日本の邪馬台国のような国造りが理想なのではないかと思うが、それは本論と直接関係ないので、あくまで余談に留めておこう。
さて、以上のように、火と時間と耳の関係性と同様に、道具と空間と目の関係性について述べてみた。
次項は、言葉について述べたい。言葉と密接な関係を持つ概念についても深く論じてみたいと思う。
さらに、「火・時間・耳」「道具・空間・目」「言葉・?・?」。この三つのセットは、これから詳述していく英雄ブランディングのセオリーの核心部分となっていくことを、あらかじめご記憶願いたい。
この三つの関係性を理解することが、マーケティングの基本なのである。そのことは、後々証明していくこととなる。
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